米ゼネラル・モーターズ(GM)の電気自動車(EV)「シボレー・ボルト」発売を機に、日米でEVを巡る競争が激化する。だが搭載する電池の視点から見ると、日韓の攻防の現実が浮き彫りになる。
トヨタが公開した電気自動車は米テスラの電池技術を採用した(11月、米ロサンゼルス)
リチウムイオン電池を納入するのは韓国LG化学。米の電池メーカーが有力とされたが、下馬評は覆った。決め手はGMのお膝元、ミシガン州にLG化学が建設する電池工場だ。「雇用を武器に受注をもぎ取った」と日本勢は悔しがる。
韓国製電池の台頭は自動車各社の戦略も変える。急成長を続ける韓国の現代自動車は年内に中型セダン「ソナタ」ベースのハイブリッド車(HV)を米市場に投入し、2013年には電気自動車を本格量産する計画だ。今後採用する電池はLG化学やSKエナジー、サムスンSDIと独部品大手ボッシュの合弁であるSBリモーティブなど韓国の3社から調達する方針。「競わせることで調達コストを引き下げる」(現代自幹部)のが基本戦略だ。
トヨタ自動車はどう迎え撃つのか。米ロサンゼルス自動車ショーでは提携先の米テスラ・モーターズと共同開発したEVを出展。「提携から半年足らずで新車を披露できた」とトヨタの豊田章男社長はスピードを強調した。電池はパソコンなどに使う小型電池を数千本つなぎ合わせた。
トヨタは電池メーカーとしての顔を持つ。将来の技術の主流が見えない中、心臓部の電池がブラックボックスとなれば新車開発の主導権を失う。内山田竹志副社長は「全方位で電池開発の主導権を握る。テスラ流が広がった場合でも対応できる」と強調する。
今年6月。トヨタの東富士研究所(静岡県裾野市)にある「電池研究部」で歓声があがった。電池の主要部材であるセルを直接積層し、容積を従来の5分の1以下にできる「全固体電池」の試作に国内で初めて成功したためだ。
電池研究部の設立は08年6月。生産技術開発部も含め、総勢120人が独自の電池開発に取り組む。電機メーカーからの転入組も少なくない。「最先端の研究を手掛ける東富士に実用化を目指す部隊を置くのは珍しい」と射場英紀電池研究部長。研究成果をいち早く製品に結びつける。
全固体電池だけではない。さらにエネルギー密度が高く大幅に小型・軽量化できる「金属空気電池」、その先には創始者の豊田佐吉が夢見た飛行機の動力源になるほどの「佐吉電池」の実現も見据える。
生産技術の蓄積も急ぐ。トヨタは貞宝工場(愛知県豊田市)でリチウムイオン電池を生産している。子会社でパナソニックも出資するプライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)にも量産ラインを新設する計画が進む。
電池研究部の射場部長は「既存の電池の改良にとどまらず、次元の異なる開発で世界をリードする」と意気込む。あらゆる要素技術に経営資源をふんだんにつぎ込むトヨタ。その分、投資負担は重い。対する現代自は調達先を競わせ効率を追求する。エコカーの性能やコストでどちらに軍配が上がるか。結果が出るのにそう時間はかからない。